
医局活性化プロジェクト対談 第25回
杏林大学医学部 消化器・一般外科学教室
2025.11.6
大切にしている理念やモットーを教えてください。
本学の建学の精神である「眞・善・美の探求」に基づき、次のような理念を大切にしています。「真」―科学的根拠に基づいた医療を提供すること。「善」―高い倫理観を持ち、患者さんのために最善を尽くす医師であること。「美」―他者を尊重し、自分を律する美しい人格を形成すること。また、外科医としては、出血を最小限に抑えた美しい手術を行い、患者さんへの負担を軽減することを目指しています。

臨床における特徴についてお聞かせください。
大きく2つの特徴があります。1つ目は「MDT(Multidisciplinary Treatment、集学的治療)」です。がん治療には手術、化学療法、放射線治療などさまざまな方法がありますが、単一の治療法では効果が不十分な場合や、治療効果をさらに高めることを目的として、複数の治療法を組み合わせることでより良い治療を目指します。当院では、消化器・一般外科だけで治療を完結させるのではなく、腫瘍内科、放射線治療科、病理診断科、消化器内科などの関連する科と密接に連携し、一つのチームとなって患者さんに最適な治療を提供しています。さらに、
MDTの推進は医師の働き方にも良い影響を与えています。多くの医療機関では、外科医が検査から手術、化学療法まで全てを担当する状況があり、それが外科医不足の一因となっていますが、当院では外科医が本来の外科業務に専念できる体制となっています。
2つ目は「MIS(Minimally Invasive Surgery、低侵襲手術)」です。これは内視鏡治療、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術による患者さんの身体への負担を減らした手術のことで、上部消化管外科、下部消化管外科において積極的に行っています。肝胆膵外科は複雑で高難度の手術が多いため、低侵襲手術の導入が遅れていた分野ですが、安全性と根治性を慎重に検討した上で、最近は低侵襲手術を取り入れています。
当院は、23区の端に位置するという地理的条件から、高度医療の提供だけでなく、地域医療を担うことも重要な使命となっています。ご高齢の患者さんや進行がんの患者さんが多く来院されるうえに、併存症をお持ちの方も多いため、治療が一筋縄ではいかない複雑なケースも少なくありません。目の前の患者さんにとって最適な治療とは何かを追求し、適応を見極め、安全で確実な医療の提供を最優先に考えています。

教育・指導についてお聞かせください。
卒後10年目頃までは大学病院と関連病院を行き来しつつステップアップしてもらっています。上部、下部、肝胆膵チームをそれぞれローテーションして消化器外科を幅広く学びます。その後、チーフレジデントとなって専門領域を深めていく場合が多いです。
私が指導上で重視していることの一つは、「手術記録」をきちんと書くことです。絵を描けるということは、頭の中で手術の全体像を明確にイメージできている証拠です。このような地道な努力を積み重ねることは、外科医として非常に重要なスキルだと考えています。また、医療は人と人との交わりによって信頼関係が構築されることで成り立つ仕事ですから、患者さんに対しても、医療従事者に対しても、リスペクトの精神を大切にするよう、日頃から指導しています。

Fig. 阪本先生が描いたオペレコ
学位取得や研究についてお聞かせください。
当教室では、基礎研究を積極的に推進しています。教室内に留まらず、東京女子医科大学のTWInsや病理学教室の協力を得ながら、学位取得を目指していただいています。研究テーマは、なるべく臨床現場に直結し、患者さんの治療に役立つ内容を選択しています。また、留学支援にも力を入れており、アメリカのエバンストン病院での研究留学を10年以上にわたり継続しています。研究は臨床とは異なり、試行錯誤の連続が求められます 。この過程で直面する困難や紆余曲折を乗り越える経験は、医師としての成長に大きく寄与する貴重なものです。
外科医を目指す医師に向けてメッセージをお願いします。
困難な場面に直面したときこそ、諦めずに一歩一歩進むことが大切です。その積み重ねが少しずつ状況を変化させ、やがてブレイクスルーの瞬間を迎えることにつながります。その瞬間は、まるでマラソンを走り切った後に得られる高揚感のようです。私はそれを「外科医のマジックアワー」と呼んでいて、外科医だけが味わえる特別な時間だと思っています。どんな状況においても、「患者さんを救いたい」という強い思いこそが、外科医として成長し続けるための原動力になるはずです。

阪本教授、ありがとうございました。